作文技術について:パラグラフ(段落)の書き方
少し前に英語論文の作文技術についてレクチャーを受ける機会があった.とても参考になったので,今日はその一部を紹介したいと思う.このレクチャーの内容について,受講前は「英語表現」を学ぶ授業だと思っていたが,実際に受講してみると主に「作文技術」を学ぶ授業だった.英語論文の作文に関しては様々な標準的な決まり事があるらしい.例えば,全体のスタイルに関してはIMRAD形式が挙げられる.今日は,それらの決まり事の中から,パラグラフ(段落)を取り上げたいと思う.
パラグラフは文章を構成する際の重要な基本単位である.良いパラグラフ構成は話の流れを明確にし,読者の理解(follow)を容易にする.英語論文においては,1つのパラグラフでは1つの論点(topic)のみを扱うことが良いとされている.日本語では1つのパラグラフで扱う論点は1つとは限らない(1つもなかったり2つ以上あったりする)が,英語論文におけるパラグラフの考え方は日本語で文章を作成する際にも参考になると思われる.以下,英語論文のパラグラフに関して,レクチャーおよびレクチャーに関連して読んだ書籍の内容をまとめてみたいと思う.
パラグラフ(段落)とは?
パラグラフは1つのtopic(論点)について説明するための単位であり,通常複数の文から構成される.そして,各パラグラフの中にはkey sentence(またはtopic sentence)と呼ばれる文が必ず存在し,key sentenceの中でtopicのmain idea(要点)が明示的に示される.パラグラフ中の残りの文は,main ideaをサポートするための文または前後の段落とのつなぎの文である.
なぜパラグラフによって論文を理解しやすくなるのか?
1つのパラグラフに1つのtopicのみが書かれているため,どこに何が書かれているかが明確になる.また,読者は各パラグラフのkey sentenceをつなげるだけで論文の流れを理解することができる.
分かりやすいパラグラフを書くために注意すべきこと
以下に,パラグラフを分かりやすく記述するために注意すべき点について列挙する.これは英語論文のパラグラフを書く際の注意事項であるが,日本語のパラグラフを書く際にも有効であると思われる.
- 分かりやすいパラグラフを記述するための注意事項
- 各パラグラフに対してkey sentenceを明示的に記述する(key sentenceを省略しない)
- key sentenceをサポートする記述においては,自明であっても論理の流れを省略しない
例えば,あるパラグラフにおいて,下記のことを述べたいとする.
「A → C である.なぜならば A → B かつ B → C だからである」
ここで,B → C は自明で公知の事実とする.このような場合,日本語の文章では「A → B である」としか書いていないことがよくあるらしい.すなわち,上記の注意事項に反して,key sentenceである 「A → C 」の記述や話の論理的な流れとして必要な「B → C 」の記述が省略されてしまうことがあるらしい.理科系の作文技術という本の中でこのような書き方をしている例が紹介されていたので,引用しておく.
重力波が実在するかどうかはまだ確かでない.しかし,最近,テーラーらは連星のパルサーの軌道周期がごくわずかずつ短くなりつつあるらしいと言っている.
理科系の作文技術 p.77
おそらく,この文章において言いたいこと(key sentence; A → C)は「テーラーらは重力波の存在の証明となる実験結果を得たと述べている」というようなことだと思われるが,上記の文章では省略されている.また,連星のパルサーの軌道周期と重力波の存在の関係(B → C)についても,(おそらく専門家にとっては自明なために)省略されている.
上記例のような省略を多用する文章は,専門知識を持った人しか読むことができず,また,専門知識を持っていたとしても,注意深く読まなくては理解(follow)できない.自分の文章を多くの人に読んでもらいたいと思うならば,このような書き方は避け上記の注意事項を考慮した方が良い.
パラグラフの書き方まとめ
繰り返しになるが,パラグラフの書き方についてまとめると以下のようになる.
- 1つのパラグラフでは1つのtopicのみを扱う
- 各パラグラフにおいて,明示的にkey sentenceを記述する(key sentenceは省略不可)
- key sentenceをサポートする記述においては,自明であっても論理の流れを省略しない
参考図書
この文章を書くにあたっては,以下の本も参照した.
- 理科系の作文技術:4章でパラグラフについて詳細に説明されている
- 作者: 木下是雄
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 1981/01
- メディア: 新書
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- 科学者・技術者のための英語論文の書き方―国際的に通用する論文を書く秘訣:30章でパラグラフについて説明されている
科学者・技術者のための英語論文の書き方―国際的に通用する論文を書く秘訣
- 作者: ロバート・M.ルイス,エバン・R.ホイットビー,ナンシー・L.ホイットビー,Robert M. Lewis,Evan R. Whitby,Nancy L. Whitby
- 出版社/メーカー: 東京化学同人
- 発売日: 2004/01
- メディア: 単行本
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- The Elements of Style, Fourth Edition:13章でパラグラフについて説明されている.日本語訳(旧版)では9章.
The Elements of Style, Fourth Edition
- 作者: William Strunk Jr.,E. B. White
- 出版社/メーカー: Longman
- 発売日: 1999/07/23
- メディア: ペーパーバック
- 購入: 49人 クリック: 171回
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「理科系の作文技術」は日本語の作文技術についての本だが,本文にも書いてある通り,パラグラフの記述については,英語のパラグラフの影響を受けている.
「科学者・技術者のための英語論文の書き方」は英語論文の書き方について日本人向けに分かりやすくまとめられている.
「The Elements of Style, Fourth Edition」は英語の作文技術について極めて簡潔にまとめられている.