「競争の戦略」をまとめてみる (11章 成熟期へ移行する業界の競争戦略)
自分が読んだビジネス書の中で最も影響を受けているのがこの本です.
- 作者: M.E.ポーター,土岐坤,服部照夫,中辻万治
- 出版社/メーカー: ダイヤモンド社
- 発売日: 1995/03/16
- メディア: 単行本
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本書では,企業の競争戦略についての基本原理が体系的にまとめられています.
まず,競争が完全競争(誰でも同じ商品を提供できて参入撤退が自由)ならば,収益率は長期債の利回りに近づく(すなわち貯金するのも物を売るのも一緒)という大原則の説明から始まり,その後も様々な分析が極めて論理的に説明されています.
戦略を考える上での土台となる考え方が詰まった本だと思います.
ここでは,気まぐれで章のまとめを書きたいと思います.
今回まとめるのは「11章 成熟期へ移行する業界の競争戦略」です.
成熟期とは製品の4つのライフサイクル「導入期」「成長期」「成熟期」「衰退期」のうちの一つで,製品が見込み顧客に行き渡ってしまい,新規顧客を見つけるのが難しくなっている段階のことです.ポーター教授はこのような業界では企業はほぼ例外なく苦難の時期を迎えると言っています.そしてこの時期には企業は大幅な戦略の転換が必要になります.
ということで,ポーター教授がどのように言っているのかまとめてみます.
移行期に業界はどう変わるか
- シェア競争は激化する.競争相手はいっそう攻撃的になる.
- 買い慣れた顧客が増える.
- 競争の重点がコストとサービスに移る.技術は安定する.
- 過剰設備になる恐れがあるため設備と人員の増強が難しい.
- 製造,マーケティング,流通,販売,研究などすべてやり方が変わる.例えば,マーケティングなら「サービスと値引きが支配的になる」「広告での競争が重要になる」など.
- 新製品や新用途があらわれれにくくなる
- 国際競争が激化する
など.
移行期の戦略
移行期の戦略の特徴および取るべき戦略は以下の通りである.移行期に挑戦すべきかどうかの検討も必要となる.
- 「コストリーダーシップ」「差別化戦略」「集中戦略」のどれかを選ばざるを得なくなる.差別化戦略とはコストをかけて,ブランド,技術,サービス等を他社と差別化する戦略であり,集中戦略とはターゲットを特定セグメントの顧客のみに絞り込むことで,顧客の満足度を上げる戦略である.
- 精度の高い原価分析が大切になる
- 製造工程の革新が必要になる
- 既存の顧客の購買幅を増やす必要がある.この時期には新規顧客を獲得するのはコストがかかる.
- 安い資産を買う
- よい顧客を選ぶ
- 国際市場で競争する
移行期戦略の落とし穴
移行期では以下のような落とし穴に落ちる企業が多い.
- 自社と業界の捉え方を改めることができない.移行期ににも関わらず,過去の経験で判断してしまう.
- 窮地に追い込まれる.ゆとりがなくなる
- シェア拡大を狙うために無駄に投資する
- 目先の利益を求めすぎる.そのためにシェアを犠牲にしたり,マーケティングやR&Dへの投資を見合わせたりしてしまう.
- 価格競争に対し感情的に反発する.⇒移行期では低コスト地位は大切である.
- 業界環境が変わるのを嫌う.⇒移行期には業界環境は変わらざるを得ない.
- 「目新しい」製品に力を入れすぎて,従来からの製品の改良や売り込みを怠る.⇒移行期には空疎な「創造性」よりも既存製品の改良により実効をあげることが大切である.
- 「高品質」を言い訳にする.⇒成熟期では品質差は消え失せる.
- 過剰キャパシティにより集中戦略がとれない.
成熟期が組織に与える影響
成熟期の組織では成長が鈍化し従業員の労働意欲がなくなる.また,「切り詰めた予算制度」「厳しいコントロール」「成果主義」等が大切になる.
そこで,以下の対処が必要である.
- 過去の成功に捕われずに業績目標を引き下げる
- 社内の規律を厳しくする
- 以前ほど昇進が期待できない状況に対応する
- 社員の気持ちに気を配る
- 分権化から再び中央集権化へ
社長のあり方
昇進させることができないのに業績だけは細かく評価しなければならない.
社長にとっては苦難の時期になることが多い.